Green Fortress

プログラマーのポエム隔離所

1作で2度美味しい「三ツ首コンドル」

この記事は週刊少年ジャンプ打ち切り漫画 Advent Calendar 2015 - Adventarの6日目…のはずが昨日書くのを失念した大事故により1日遅れでお届けします。本当にごめんなさい。

今回お届けするのは去年ジャンプに連載され、全三巻で打ち切りとなった「三ツ首コンドル」のご紹介です。 この漫画の特徴的なところは最序盤に「どうしようもないクソ漫画」として散々物笑いの種になったにも関わらず尻上がりでクォリティを上昇させ、連載終了間際には少数ながら固定ファンを獲得するに至ったところにあります。*1

そんな本作の軌跡を辿りながら、その魅力について語っていこうと思います。 ちなみに私は連載最序盤から某掲示板に張り付いて定型文の応酬を楽しみ、単行本全巻買ったバリバリのコンドラーです。 あと、要所要所ネタバレしますのでご注意を。

フフフ、概要正確ですよ

かつて「常闇の三大盗」の一人として恐れられた盗賊・マシマロと成り行きで弟子になった少女・スーが全部で59あると言われる「魔女の宝」を集めるために奮闘する冒険譚です。 序盤は宝がなさすぎてパッとしないのですが、終盤は豊富な宝と宝の魔力で能力を持った「魔女の副産物」による華々しい能力バトルの様相を呈してきます。

主人公の一人、マシマロは非常に小柄で子供にしか見えない容姿なのに敬語口調で妙に達観したところのある掴みどころのない男です。 大抵「フフフ、○○ですよ」の形式でしゃべるので口調をエミュるのがかなり簡単だったりします。 職業は盗賊ですがテンプレ義賊みたいなもので、彼自身は基本的に善人のカテゴリーに位置します。 性格としては異様に「美」にこだわります。*2

とらえどころのない性格と美への執着でさっぱり感情移入ができないのが読者から見て困るところですが、根幹のところではとても仲間想いなことが終盤に明らかになります。 冷静さ、宝への執念、高い体術や盗みの技量、宝の扱い方など随一の能力を誇りますが終盤に死にます

もう一人の主人公、スーはマシマロに憧れていた少女で、最初はただなりゆきでついていっただけの存在でしたが最も憧れていた男を間近で見続けて急激に成長します。あとおっぱい。 わかりやすい常識系ツッコミとお色気担当で成長枠でもあります。レギュラーが少ないから役割が多い。

ちなみにこの二人の技は全て「(アルファベット大文字)・(日本語)」で統一されています。 「G(ゴーレム)・ナックル」とかは違和感ないのですが、「M(目潰し)・蹴り」や「R(竜)・砕き」のようにどう考えてもダサい技名でもブレません。

この二人を軸に、宝を持つ盗みのターゲットである王族や競合する盗賊、他の「常闇の三大頭」のメンバーが関わってきます。

誤植…誤植しない…

この作品はかなり誤植が酷く、意図が伝わりづらい言い回しも多いため山程迷ゼリフを産んできました。 単行本では殆ど修正されてて当時のライブ感が味わえないので再掲しておきます。

  • 第1話「B・B・Dでよろしく」→なんでブラよろみたいなタイトルなんだって皆を疑問に陥れましたが単行本で「B・B・D」に修正されました。あからさまに担当との間で伝達ミスしてます
  • 1話にしていきなり出てくる宝のNoが混在します。「No.16 ゴーレムの心臓」「No.45 ゴーレムの心臓」ってどっちやねんと。*3*4
  • 「逆鮮」→多分逆鱗の間違いだろうと言われていました。しかも技名を最後まで言えなかったせいで余計アホっぽいことに…
  • 「フフフ、小声正確ですよ」→単行本で「正解」の誤りだと明らかに。言いたいことはわかるけど変な言い回しが刺さって頻出する定型文になった台詞です。
  • 「奴らを二度と誉めはせんよ」→変なセリフ回しでしばしば使われる定型になったフレーズですが「嘗めはせんよ」の誤字であったことが単行本で明らかになりました。
  • 「三日間の蘇生もようやく完了かと」→単行本で「三日かかった蘇生も~」に修正。この表現のせいで蘇生に三日かかったのか蘇生できるのは三日間だけなのか結構スレで議論になりました*5

ゾク

マシマロが本気になった際に気圧されたキャラクターが発する擬態語で、1話から結構頻出するのですが、マシマロの絵面がかなりダサいせいで「ゾク(笑)」みたいな扱いを受けることになりました。いつでも切り返しに使える便利定型の筆頭です。 ただ、結構連載を通してレベルアップしたところでもあり、私の感想としては「初回はカッコよく見えた」「今回は普通にカッコ良かった」と着実に進歩を重ねてきた演出でもあります。*6

ム・待て第二話 貴様加減などわかって… あぁ!

百戦錬磨のコンドラーをしてその全員がクソだと断言するであろう問題エピソードです。 「二話のせいでスタートダッシュに失敗して打ち切りルートに突入した」と考えているコンドラーも結構います。 話の流れはこうです。

ある村の酒場で飯を食うマシマロとスー

村人から騎士であるサルサから村の宝である竜殺しの剣を取り返して欲しいと依頼を受ける。彼は村の護衛をすると言い張って勝手に居座り、強引に剣を奪った挙句対価まで払わせているという

竜殺しの剣に興味を持ったマシマロは彼がいる洞窟に向かう

サルサと交戦し、いとも容易く撃退

剣を返そうとしたスーは村人から感謝されるもその場で剣をマシマロが強奪して逃走。スーも結局一緒に逃げる。サルサはマシマロに興味を持ち、護衛を放棄してマシマロを追い始める*7

以降の話ではサルサは最終話まで一切出現しない

これだけ見ると普通というか、ちょっと突っ込みどころのある話の流れなだけですが、「非常に独善的」「一見誇り高そうだが卑怯な手も躊躇いなく使用する」「弱い」という傍若無人極まるサルサに対して「え、まさかコイツ仲間になるの」と皆が不安になり、結局仲間にならなかった今となっては「じゃあなんでこんな話用意したんだ」と言われることになってしまうのでした。引きも一切ないし。

サルサに関しては存在そのものがネタとなっているので細かく台詞を追ってみましょう。

よく避けた 騎士の誇り高き一撃を

不意討ちに失敗したあとはこう言うと場を取り繕うことができます。

フン!その程度で躱した気になるとは愚か!

彼の攻撃はマシマロにもスーにも全てかすりもしていないのですがこの自信。

ム・待て女…貴様 加減などわかって…あぁ!

スーに剣を奪われたサルサが発した迷言。この台詞以降のバトル描写はカットされ、いきなり場面が吹っ飛んで場面は村に移ります。 アニメとかだとしばしばある演出ですが、どう考えても第二話にやるやつじゃない。

安い挑発だが乗ってやろう 騎士の誇りにかけて剣は取り返す!故に悪いな村人よ護衛はここまでだ!

いい人っぽく言ってますがそもそも村人の悩みは剣を奪って強引に居座るサルサです。

しかも「逆鮮…」と技を言いかけているところで「あ、頂き」という異常に軽いノリでスーに剣をパクられた挙句、上のようにいきなり省略される気の抜けるバトルシーンで、当時のコンドラーの関心は「どれだけ笑えるセリフ回しが出てくるか」「どれだけ意味不明な展開になるか」に集約されていました。

なんぞ連載する そのコンドルは手遅れぞ

そんな空気が徐々に変わってきたのが単行本でいうところの2巻収録分からです。 金の亡者である盗賊、ブルーシールが加入して掛け合いが充実化し、スーのお色気シーン増加、魔女の宝「魔術王の指輪」から召喚される悪魔がかっこいいなど見どころが徐々に増え、序盤で散々見せつけられた話の流れも整然とされてきます。

そして最後のエピソードでは残りの「常闇の三大頭」のオリーブとハヴァが登場し、マシマロが冒険する理由が明かされます。 ハヴァとの怒涛の能力バトルの果てにマシマロが死亡し、怒りに燃えるスーが秘められた力を目覚めさせハヴァを撃退。 マシマロを喪ったスーはその後…というエピソードまでが18話の間に濃度マシマシで描かれます。

当然打ち切りなので駆け足感はありますし、ハヴァは連載続いてれば味方になったポジションだろうなと思わされるのですが、それでも残された話数からきっちり話をまとめきった点は評価に値します。

私はまとめが 欲しいのです

「三ツ首コンドル」は「突っ込みどころのだらけのクソ漫画」が「粗削りながら見どころのある佳作」へと成長していく様子が全三巻18話で楽しめます。 単行本のエピソード加筆もかなり充実していますが、本誌の誤植も笑いのネタなのでどちらもおすすめです。 機会があったら是非読んでみてください。定型とか覚えておくと石山先生が次連載した時に使えると思います。*8

ハハッ その後とはビリリときたよ

作者の石山先生はその後、ジャンプNEXTで「凶星の紫」を、そして今日発売のジャンプに「妖移植変異体ガロ」を掲載しました(どちらも読み切り) まさか私も1日遅れたことでネタが増えることになるとは予想だにしていませんでした。

「凶星の紫」は個人的にあんまりピンと来ませんでした。無能力筋肉担当はさすがにデクとアスタさんいればいいかなという感じで食傷気味でした。 「妖移植変異体ガロ」は全体的にいい出来で楽しく読めました。ただ仮にこれで連載したとして生き残れるか、とは少し考えてしまいます。たった18話であれだけレベルアップした方なのでもっと素直に唸らせてくれることを期待しています。あとおっぱい。

*1:クソ漫画じゃなくなったから失望したと主張する読者も少数存在します

*2:ストレイト・クーガーが「速さ」にこだわるようなアレです

*3:単行本で45が正であると明らかになりました

*4:このミスのせいで2chのスレテンプレには「登場したお宝」に両方のゴーレムの心臓が記載されるネタが存在しました。本スレのNo.16も「【石山諒】三ツ首コンドル No.16【No.45】」なんてことに。

*5:限られた時間蘇生できる魔女の副産物が登場したせいで余計わかりづらい

*6:これは普遍的な意見ではないので見方が異なる人もいるかもしれません

*7:締まってるようで全然締まっていないこの話、編集によるラストの煽り「☆マシマロ式の一件落着…!? 」は定型入りしました

*8:SOUL CATCHER(S)の話するときにはLIGHT WINGの定型も役に立つように