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Green Fortress

プログラマーのポエム隔離所

10年ぶりくらいに「イリヤの空、UFOの夏」を読んで2

メモ

昨日は所用で4巻が読めなかったので今日読んだ。

特に、「夏休みふたたび・後編」と「最後の道」はほとんど内容を覚えてなかった。 過去に何回か読んだ時もショッキングすぎて直視できなかったんだろうと思う。 3巻の「水前寺応答せよ・前編」で日常が崩壊するのもショッキングだが、「夏休みふたたび・前編」で築いた仮初の日常が後編で伊里野の精神ごと完膚なきまでにぶっ壊れるさまは心を打ちのめした。 あの時の浅羽は無力感と焦燥感に囚われていたとはいえゴミオブゴミオブゴミでしかなかったが、挿絵にもなった最後の道の果てで自分の過ちに気づいて慟哭する様は胸を打つものがあったし、「南の島」ではヘタレなりに気持ちをきちんと打ち明け、ミステリーサークル作りでは先にUFOの夏を終えた水前寺に自分の意志を伝えて物語の幕引きをした。 こうして読んでみると読後感は切ないなりに決して悪く無い。

「夏休み」の破綻について

浅羽と伊里野とホームレスの吉野、猫の校長の小学校潜伏生活は一旦堰を切るとドミノ倒しのように崩壊していった。 吉野は伊里野に乱暴し(伊里野がレイプされたかどうかは根が深い論争になっていた)、現金の大部分を奪った挙句に警察に通報を行うも、自分も伊里野に腎臓を刺される深手を負っており、ホームレス生活を続けるには不安が残る。 つまりぶっちゃけ誰も得をしていないのだが、事の発端は潜伏生活がバレかけていることを危惧した吉野が浅羽がいないタイミングで伊里野に話を持ちかけてしまい、伊里野が頑なに拒絶したために口論の末争いになっている。 ここではコミュニケーションの仲介に浅羽がいればここまで最悪の事態に至らなかった可能性は十分にあるが、当の本人は買い物帰りに河原でエロ本読んでいた、というのがどうしようもなさを加速させる。 ついでに挿絵の目次にあった「Special Thanks:3人の女」というのが浅羽のエロ本妄想に出てきた女性を指していたことに今日やっと気づいた。

作中の軍事的衝突について

作中では少なくとも「エイリアンとの衝突」と「人間同士の戦争」の2つが描写されており、前者は作中のラストで伊里野の喪失と引き換えに決着がついた、と解釈をすべきである。 後者は案外細かく作中に断片があり、ざっくり推測するとこんな感じになる。

  • 日米韓は同盟関係である。ただし、作中に韓国軍の描写はない
  • 北朝鮮は敵対関係であり、過去に爆撃をしたことがある他、38度線で睨み合っている。他にも「共和国」なる国があるらしい。中国?
  • 4巻に帝都が何かしらの爆撃を受けた描写がある
  • 作中で一般人物が示唆する戦争とエイリアンとの戦いの時期が一致していないことから、これらは独立した動きであると推測できる
  • 「南の島」の前半で戦争の終わりを示唆する内容があるが、人間同士の戦いに関しては戦略目標を達成した(=北を打倒した)可能性が高い
  • 園原基地の軍縮も↑の描写を後押ししている

終わりゆく夏

地の文を読んでいると、旭日祭くらいまでは夏の暑さが強調されているが、それが次第に移り変わっている。「無銭飲食列伝」まではセミの鳴き声の描写があるが、「水前寺応答せよ」以降では探した限りでは見つからなかった。むしろコオロギや秋の虫の描写があり、完全に秋になっていることがわかる。 それに対して、着替えられずにずっと夏服を着ていたり、(祖父母の家目当てで)夏を追いかけて南に向かっている浅羽の拙い抵抗がなんともいじらしい。 海に行き着いて最後の道が完全に途切れ、一旦は現実逃避した妄想で心だけ南の島にトリップしていたが、「南の島」で妄想通りにはいかないまでも終わってしまった夏がほんの少しだけ蘇ることになる。 4巻の殆どを終わった夏を引きずってもがいていた浅羽は伊里野との最後の別れを経て夏を「終わらせる」という決意に至る。 そして物語の最後の最後に逃避行の最中に飼い始めた猫の校長が次の夏に失踪したことを告げて全ての幕が閉じる。 わずか3行程度の文章とはいえ、伊里野がいなくなっても次の夏が来る、という物語を読み終わった気分になってるところにほんの少し後ろ髪を引いていくところがまたずるい。 ついでに浅羽と伊里野の最後の別れも思いの外あっさりしていて、そのあっさり加減が名残惜しいが「南の島」自体が3分ロスタイムみたいなものなので仕方ないのかな、とも。

おわりに

6月なのにもう夏が終わったような心境になってしまった。研究進めないとなぁ…

(追記) 以下のページによると、出典は不明だが印象的な文章がある。 http://egfinal.jp/iriya.html#thema

この本は、作者曰く「おっさんが昔を思い出して読む話」だそうです。

中学生がアラサーおじさんになって無事に対象年齢になりました。 ええもう思惑通りのノスタルジーに浸れましたとも。